カウントダウン

2020年3月31日
校長 柳沢幸雄

 開成の生徒諸君、保護者の皆様、私の校長としての任期は2020年3月31日までである。つまりあと約8時間で校長としての権限を失うとともに、責任から解放される。この引継ぎのギリギリまで判断すべき項目、アナウンスすべき項目を抱えるとは夢想だにしなかった。
 今日、3月31日もやはり午前中から会議に追われた。新コロナウイルスによる感染の広がりの下で、2020年度1学期の教育内容の検討を行ったのである。野水次期校長にも同席を願って、困難な状況の下でも開成の教育を推進していくための知恵を出し合った。

 既にホームページで連絡している部分もあるが、1学期の学校行事には大きな変更がある。
① 4月18日の筑波大学附属高校とのボートレースの定期戦は中止する。なお日を改めて開催する可能性については、両校ボート部の話し合いを基に両校で検討する。
② 5月10日の運動会は6月7日に延期する。
③ 6月1週目の学年旅行は8月最終週以降の実施を検討する。
④ 入学式、始業式、健康診断は日程通り行いたいが、詳細は4月1日にホームページ或いはフェアキャストで連絡する。
⑤ 対面授業、部活動、委員会活動は4月12日まで行わない。
 
 以上の様に強い制約を受けている状態で開成の教育を進めざるを得ない状況である。開成の教育は、①知識の獲得だけでなく、自分流の学び方の獲得も目指す授業、②自分の素質を花開かせる部活動、③チームとして皆の力を結集し、達成する喜びを経験する学校行事の3本柱で構成されている。
 登校できないという事は、3本柱のうち②と③が欠けた状態で教育を行うという事である。②と③、すなわち部活動、学校行事準備などの課外活動は開成生の自主性と自律性を育むための教育装置で欠く事ができない。また新入生にとってはボートレースや運動会の準備を通じた上級生との交流で得られる開成の良き伝統を感得できないという事である。良き伝統、すなわち先輩の優しさ、きめ細かな面倒見によって開成の中で自分に適した居心地の良い居場所を見つける機会が減少する。
 開成は成功した組織である。リーダーのスムースな交代や、素晴らしい教育実績によって、ボートレースの応援歌に歌われているように、道灌山に赫赫と輝く歴史を重ねてきた。しかし成功した組織は、ともすれば保守化し、因習に囚われ、陳腐化し歴史の表舞台から消えていく。1学期の学校行事は、受験生を開成生に変身させる精巧に作り上げられた教育装置である。この装置の設計者はいない。毎年の検証と微調整によって徐々に作り上げられた装置である。伝統の産物である。
 残念ながらこの装置を今年働かせることができない。しかし心配には及ばない。開成は、陳腐化して歴史の表舞台から消え去ることは決してない。対面教育が行えなくなった3月2日以降いろいろな形で行われた教員と生徒間の遠隔教育、そこに施された工夫が示しているように、開成の教育は工夫に満ちている。また生徒たちもよくそれに対応している。開成の底力を目の当たりにする事ができたことを私は幸せに感じている。
 これから暫くは続くかもしれない遠隔教育のために生み出される一つ一つの工夫が開成の新しいページを生み出していく。時を同じくして「開成の未来を創る」高校校舎建築が行われている。新コロナウイルスによる困難なこの時期を、新しい開成の生みの苦しみ、天の配剤と考えようではないか。生徒諸君、保護者の皆様、教職員諸氏、新しい開成の為に夜明け前の漆黒を乗り越えようではないか。

 伝統を踏まえ、伝統を乗り越える
 Beyond Tradition
 伝統を越えて行こう

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