英語曲を全員で歌うことで、記憶が鮮明に残る
五つめの特徴は、これは教員になってからずっとやっているのですが、授業の中盤で、ビリー・ジョエルやスティービー・ワンダーなどの英語の歌をみんなで歌うことです。2カ月間同じ歌を歌い年間で5曲。6年間で30曲。歌ってそのときの空気が冷凍保存されるようなところがあり、あとで聞くと記憶がぱっとよみがえります。自分が生きてきた中でも音楽がもたらしてくれたものは、大きかったと思います。そんな音楽の力を授業の中で生かしたいと考え、歌をずっと取り入れてきました。
集中力を持たせるためという意味もあるし、選曲はそのときに学んでいる文法と関連づけてあるから、このように使われるという一例を示すことにもなるという理由もありますが、歌うのが楽しいということに尽きるんじゃないかと思います。生徒たちはみんな楽しそうです。開成の生徒は運動会で大声を出していることもあり、声を出すことに抵抗がありません。歌の時間がうまくいっているのは、そんな学校の雰囲気に助けられている部分もあるように思います。

授業では、英語の歌をみんなで歌っています。年間で5曲、6年間で30曲。歌ってそのときの空気が冷凍保存されるようなところがあり、あとで聞くと記憶がぱっとよみがえります
海外経験がなくても、英語だけで授業ができる姿を示した
私には、英語の教員としての海外経験がありません。実際に外国語が使われる環境を「海」であるとすれば、海で泳いだことのない私は「プール」で教える「プール教員」であると認識して、生徒をプールでちゃんと泳げるようにすることにずっと力を注いできました。
実際、卒業生の多くが仕事で英語を使うことになりますが、プールで身に付けた堅実な英語力で対処できる部分は非常に大きいものです。また、プールという人工的な環境だからこそ、ある程度の効率の良さや達成感を味わわせることも可能です。それに学習者が「どこでつまずくか」「どういうことが覚えづらいか」を深く理解できるのは、海に出ることなく、プールで英語を身に付けてきた者の強みであるともいえる。日本にいながらにして、どのように海外の情報を得るか、どのようなものに重きを置いて、何を吸収していけばいいのかを、生徒たちに示すようにしています。
そんな私が、一切日本語を使わず英語だけで行う英英授業にチャレンジした学年がありました。もちろんネイティブのようには話せない。つかえるし、言い間違いもする。けれども、海外経験がなくても、ここまでなら話せるようになるのだということを示したいと思いました。
授業は、英語だけで行う聴き取り中心の授業と、日本語で補完する授業の2回で1セットです。聴き取りの教材は、TEDトークやラジオドラマ、インタビューなど母語話者による実際の英語使用場面の音声を使います。
聴き取りの授業では、まずあらかじめ知っておくべき語彙を説明してから1回目の聴き取り。ここでは要点をつかむことが目的で、粗い理解で埋められる穴埋め問題を解きます。できなかったところのヒントを与えて2回目を聴く。このときは細部を聴き取りながらメモをとります。確認してから3回目。さらに細部まで聴き取りスクリプトを完成させます。50分授業も終わり頃には、最初はほとんど聴き取れなかった生徒もわかるようになります。この授業の間中、私が使うのも生徒たちが使うのも英語だけです。
英語が得意な生徒ばかりではないので、英英授業の間、非常に辛い思いをしている生徒も少なからずいます。そのため、次回の日本語による授業では、そんな生徒たちをフォローしつつ、日本語で説明すべきことは説明し、聴き取りにくかった細部を日本語で補完して完全な理解につなげます。そして構造に注意しなければならない文をいくつか抽出し、それを使った作文へと応用させていきます。
このセット授業は、初回の授業で魚が海を泳いでいるところを見せ、次の授業でその魚を捕まえてきて詳しく観察させようとするものです。魚が泳いでいる姿を見せるということは、言い換えれば、前後の文脈のなかでその文がどういう形で出てくるのかを示すということ。これが生きた言葉の理解につながります。
しかし、自分が英語で教えることについては当初は不安ばかりでした。それでもまがりなりにも、なんとか高校3年間英英授業を続けました。
最終授業のあとのアンケートに、「あの授業がいちばんよかった」「もっと受けたかった」というありがたく、そして、温かいコメントがたくさんありました。これは開成の校風なのか、生徒たちは誰かのチャレンジに対してとても優しくて、「そういう姿がいいんだ」と後押しするようなところがあるのです。「先生が英語で話すのを見て、自分も自信を持っていいんだと思えるようになった」というコメントも。この感想が引き出せたのは、流暢でないプール教員なればこそだと思います。
その後、コロナ禍で変則的な授業になってしまった学年ではできませんでしたが、今の学年が高校生になったら、また英語だけの授業をやりたいと思っています。

英語だけを使う英英授業は生徒にも好評でした。TEDトークやラジオドラマ、インタビューなど教材探しには苦労しました




