本校では、中学3年と高校2年で「修学旅行」を、中学1年、中学2年及び高校1年で「学年旅行」を、それぞれ実施しています。実施時期はおおむね6月第1週で、高校2年は4泊5日、中学1年と中学3年は2泊3日、中学2年と高校1年は1泊2日です。 この旅行には、二つのねらい-学習上のねらいと学年運営上のねらい-があります。 本校では、従来から、学年に関わる様々な教科から課題が与えられるクロスカリキュラム化した旅行を行い、その成果は「旅行文集」の形でまとめてきました。言い換えると、それぞれの生徒がもつ関心や興味をもとに、多様な視点から見学・体験し、知る・調べる・書くという学習活動を総合的に行う場として旅行を行っています。 もうひとつは、学年ごとに旅行委員会を組織して旅行の企画・準備などを行うという、生徒が自主運営をする場である ということです。この旅行委員会は、各クラスの旅行委員と担当学年の教員が参加し、話し合いの中から旅行を作り上げていきます。例えば、この委員会の話し合いの中で旅行の行き先なども決められます。なお、本校では、運動会や文化祭を生徒の自主的な運営で行っていますが、これらは高校生がリーダーとなって行うので、中学生にとっては旅行委員会が唯一自分たちが主体となって運営する学校行事といえます。それだけに中学の各学年にとってはより大切な学校行事になっています。
2023年度の例
六月七日(水)~九日(金)の三日間、中一は入学後初めての宿泊行事として富士山周辺への学年旅行に行ってきました。三〇七名が欠席/遅刻なく全員参加できたのが何よりでした。
初日は好天に恵まれ、相模湖プレジャーフォレストにて恒例の飯盒炊爨を行いました。「包丁を持つのは生まれて初めてです」と言って独創的な手つきで野菜を刻む者、薪の煙が目にしみるのを防ぐためビニール袋を顔に貼り付けて火をたく者など、悪戦苦闘しながら何とかカレーライスを作り上げました。食事を作ることの大変さと、食事を作ってもらえることのありがたさを実感したことでしょう。作成に二時間、後片付けに三時間半かかって飯盒炊爨を終え、河口湖畔の宿に向かいました。
二日目は、複雑なスケジュールとなりました。
午前中は、一~四組は富士山のお中道ハイキング、五~七組は「ぷちアドベンチャー」。午後は、六つの個人選択コースに分かれました。麓は晴れていましたが、五合目あたりはちょうど雲の中。幻想的なハイキングとなりました。新緑を愛でつつ、森林限界を確認し、沢崩れの生々しさを目の当たりにするなど、自然の姿を知ることができました。
午後は、旬のサクランボを満喫するコース、カヌーやバスフィッシングを体験するコース、竹で筏を組んでレースをするコース、原生林や樹海を歩くコースなどに分かれました。私が参加した樹海コースでは、ネイチャーガイドの方のお話を聞きながら樹海を散策し、コウモリ穴と呼ばれる洞窟に入りました。樹海では溶岩の上に木が育っているため根は下に伸びることができず横に張っているだけで倒れやすいこと、雨水が溶岩を通り抜けてしまうため川も水たまりもなく、ボウフラが育つ場所がないので蚊がいないこと、大木とその根元に生えているコケとはどちらも自分の都合の良いようにしているだけだが結果として互いに利益を与え合う共生関係になっていること、そのような共生関係を築けなかった生物は絶滅してきたこと、人間が他の生物と「互いに利益を与え合う」共生関係を築いているとは思えないことなど、新たに気付かされること、考えさせられることの多い時間でした。
三日目は、五~七組が富士山のお中道に行く番でしたが、夜来の大雨の影響でコースの短縮を余儀なくされました。一~四組の「ぷちアドベンチャー」は雨の中、アドベンチャー度の高いイベントになりそうでしたが、スタートの頃に雨が上がり、穏やかな冒険となりました。「ぷち」とはいえ、地形図を片手にチェックポイントを探し、河口湖周辺を歩き回る経験を全員ができたのは、地理の教員としては嬉しいことでした。
「引き取り手のない忘れ物ゼロ」という目標から程遠い結果に終わってしまったことは残念でしたが、初めての学年旅行を通して、運営や生活などの面で来年以降の旅行に向けて改善・成長していくポイントをたくさん学ぶことができました。旅行委員を中心とした生徒たちの企画力・運営力・生活力が向上し、充実した学年旅行・修学旅行が行われるようになっていくことを楽しみにしています。
2020年度の例(中一学年旅行・谷中散策)
中一学年旅行は、六月に富士山方面において二泊三日で実施する予定であった。我々学年教員は、三月中旬に下見を済ませ、四月に新入生を迎えて準備作業に入ることを心待ちにしていた。しかし、その思いが叶うことはなかった。
秋以降に延期とされた中一学年旅行をどのように実施するか。一度目の緊急事態宣言が解除された後、学年教員で何度も話し合った。宿泊旅行は、実施できるか見通しが立たなかった。本来予定していた飯盒炊さんだけでも、日帰りで実施できないかも検討した。しかし、バス利用は三密となり、食事を取り扱うことも懸念され、断念せざるを得なかった。
結局、電車利用の現地集合・現地解散とし、近場の日帰り旅行とする方針を立て、新たに企画を練ることとした。三浦半島の観音崎におけるハイキングを提案したのは、私である。条件に合致するこ
とに加え、歴史のオンライン授業で取り上げたペリー艦隊来航の現場を生徒とともに見たいと考えたからである。青い海を眺めれば、鬱屈した気分が少しでも晴れるかもしれないとも思った。
一学期の終業式の日に旅行委員会を立ち上げた。お盆休みに学年教員で下見を行い、コロナ禍でも実施できる手応えを得て、実施日を九月一八日とした。二学期が始まると旅行委員会を招集し、当日の行程と旅行委員の役割を説明するとともに、しおりの作成を指示した。旅行委員の編集能力が高いことに驚いた。立派なしおりが出来上がった。
当日は、秋とは名ばかりの炎天下の一日であった。青い海が眩しかった。クラスごとに時間差をつけて、馬堀海岸公園に集合した。組主任が先導し、「うみかぜの路」とよばれる遊歩道を歩き始める。猿島と東京湾を行き交う数多の船を眺めながら歩き続け、途中、砲台跡である御所ヶ崎で休憩し、東京湾を背景にクラスごとに写真撮影を行った。再び歩き始め、走水漁港を通って観音崎公園に入る。集合場所を確認したうえで解散とし、班別の自由行動へと移った。 各班はしおりを手に、公園内に散らばってゆく。横須賀美術館や観音崎自然博物館、観音崎灯台など施設見学に赴く班、海辺に向かう班が多かったように思う。お腹がすいたのか、早速にお弁当を食べる生徒がいる。虫取り網を持参したり、サッカーボールを持参したりする生徒もいた。初めての行事に、楽しそうな生徒の笑顔が嬉しかった。
帰路は行路の逆を歩く。生徒もいささか疲れを感じたようだった。クラスごとに京急馬堀海岸駅まで引率し、駅前で解散とした。
旅行業者に依頼するわけでなく、学年教員と生徒による手作りの日帰り旅行となった。コロナ禍に初めての行事を成し遂げたことに安堵した。
続けて、中一学年の第二段の行事として企画を進めたのが谷中散策である。例年では、二学期に上野公園の美術館見学とセットで実施している。しかし、コロナ禍にあっては思い通りにはならない。美術館では入場制限が行われており、学年生徒の全員が入場することは不可能である。美術館見学はやむなく断念した。
谷中散策は、開成の周辺の歴史や地理を知ってもらいたいという思いから、二〇年ほど前、学年企画として始まり、それが次第に行事化したという経緯がある。私も若かりしときに、生徒に配布する資料冊子『開成の周辺』の作成をお手伝いさせていただいた。個人的にも思い入れのある行事である。
今回、『開成の周辺』を全面的に手直しすることとした。二〇年の月日は、開成の周辺を否応なく変貌させていた。学年以外の教員の協力も得ながら、現状と齟齬をきたす本文の記述には注記を入れ、地図は最新のものへと差し替えた。
谷中散策は、班別の自由行動で実施する。今後の学年旅行に向けて、自分たちで事前に調べ、行動計画を立てる練習でもある。
行動計画を立てるには生徒への働きかけも必要と考えた。歴史の授業を利用して、開成の周辺を実際に歩いて、特徴的な地形や数多くある史跡を実感させた。谷中という地名を地形から理解すると、数多くの坂の存在に気付くだろう。開成学園のグラウンドが、縄文・弥生時代の遺跡であることに驚く生徒もいた。その上で、HRの時間を用いて班別に話し合わせ、行動計画を立てさせた。
実施日は、中間考査最終日の一〇月二七日である。試験終了後、教室で昼食を食べた後、班別に学校を出発した。
夕やけだんだんから見下ろすと、谷中銀座周辺は生徒であふれていた。買い食いは不作法でなければ、目をつむることとした。谷中霊園で著名人の墓を探す班、坂を上り下りしながら歩き続ける班、かつて川だった道を歩く班などなど、銘々に谷中周辺を散策し、集合場所である上野公園へと向かった。早く上野公園に向かい、各自で事前予約していた博物館や動物園などを見学する班もあった。
集合時間よりも早く集まってしまった班は多かった。散策という観点では残念であり、もう少し見てこいよと思った反面、生徒と教室外でいろいろな話をする機会にもなった。皆、いい顔をしている。
谷中散策も無事に終わって何よりだった。二学期の行事は、マラソン大会を含め、生徒を歩かせ、走らせるしか行えていない。コロナ禍にあって、教育の理想ばかりを追い求めるわけにもいかない。その思いを抱きつつ、次年度は宿泊行事を実施できる社会状況になることを願うばかりである。
2019年度の例「生徒がつくる旅行に向けて」
富士山方面への2泊3日、河口湖畔のホテルでお世話になるのも昨年までと変わらず、学年全員308名で今年の学年旅行に行ってまいりました。
入学して約2ヶ月での旅行となるため、中学1年生は旅程の大枠は生徒と相談しながら決めることができません。教員側も4月に入ってからの下見で、行程を決定していきました。
4月下旬に旅行委員会を組織し、各体験のグループやバスの座席をランダムに設定するなど、日常で関わらない生徒同士が交流する機会を期待して準備を進めました。それぞれのプログラムでは事前に顔合わせをしてから当日に臨みましたが、初対面のメンバーで構成されたグループでも頓着せずに協働できるのは開成生の強みのひとつだと感じます。
初日の飯盒炊爨は、多くの生徒にとって慣れない作業でした。鉛筆削りを思わせる人参の皮むきや必要以上に燃えさかるカマドにヒヤヒヤしたものの、グループで揃って「いただきます!」と食べている姿は満足そうでした。
2日目は5コースに分かれての活動でした。まぶしい日ざしのもと、西湖での2人乗りのカヤックやタイヤチューブと竹を組んでのいかだ作り、河口湖周辺の野山を駆けめぐるオリエンテーリング、ヘルメットとヘッドランプをつけての樹海洞窟探検など富士山ならではの体験のほか、アドベンチャーゲームを通じて、仲間との協力を学ぶコースもありました。山中湖周辺でのカーリングコースは、氷上でダウンジャケットを着用しての活動でありましたが、ゲームはとても白熱したものになったようです。
3日目は富士山5合目御中道を歩く予定でありましたが、あいにくの雨で御庭周辺の散策となりました。風が強く、ガイドの方によると体感温度は10度未満だろうとのこと、自然の厳しさ、富士山の普段見ることのできない姿にふれる貴重な機会でありました。
旅行から帰ってきた翌週には、来年に向けての旅行委員会が動き出しました。生徒による投票を経て、行き先は愛知方面に決定しました。今年も準備から当日まで、さまざまな場面で活躍がみられた旅行委員ですが、来年は学年全体を巻き込みながら一層深く計画や運営に携わり、より充実した学年旅行をつくっていくことを願っています。
2018年度の例
中一は例年通り、六月六日(水)から八日(金)までの二泊三日で、富士山周辺への学年旅行を実施しました。
初日は相模湖プレジャーフォレストでの飯盒炊爨です。各組の同じ出席番号の者七名がチームを組み、薪を燃やしてカレーライスを作ります。努力の結果、おいしいカレーライスができたチームも、「カレーのようなもの」ができたチームもあったのはやはり例年通り。あいにくずっと雨でしたが、屋根の下から出て遊びに行けなかったせいか、みんな集中し協力して作業をしていました。全チームの片付けが完了するまでの時間が、過去十数年の中一飯盒炊爨の中でダントツの最速でした。「やればできる」ことを実感できた、よい体験となりました。
二日目からは、うって変わって青空に恵まれました。二日目は、六つのコースに分かれて、充実したプログラムを満喫しました。
午前中に一流のコーチから指導を受けて練習し、午後に八チームの対抗戦を行った「カーリング」コース。
半日は森の中で本格的なフィールドアスレチックを楽しみ、残りの半日はプロの木樵の方が木を伐採するのを目の前で見て、枝を切り落としたり丸太を運んだりする体験をした「フォレストアドベンチャー」コース。
富士山からの伏流水が地層の境目から流れ落ちる滝とその源流をたどり、清流の幸を使って地元のお母さんたちと昼食を作って食べた「湧水の恵みウォーク」コース。
十名ずつのチームに分かれて、全く何の指導もアドバイスも受けずに竹と紐だけで筏を設計・作成し、西湖に浮かべてレースを行った「筏づくり」コース。
青木ヶ原の樹海を、洞窟の中に入ってみたりしながら、溶岩の気持ちになって本栖湖まで歩き通した「樹海洞窟探検」コース。
四名ずつのチームで、地形図とコンパスを持って、標高差五百メートル、歩行距離二〇キロほどの範囲のオリエンテーリングの成績を、制限時間六時間で競った「ガチ・アドベンチャー」コース。
どのコースも、楽しい体験を通して新たな仲間と協力しあうことを目的として設定されました。また、「誰でも気軽に参加できる一般的な内容」ではなく、開成の中一の学年旅行だからこそできるものを、と各主催団体にリクエストを出して実現したプログラムでした。「楽しかったー!」と言ってホテルに帰ってきた各コースの生徒たちの表情に、充実感や達成感が滲み出ていました。
三日目は、バスで富士山五合目まで上がり、御中道から奥庭へのハイキングを行いました。抜けるような青空の下、北側には雲海が広がり、西側は南アルプスの山々から三保の松原、御前崎までが一望できました。しかし、生徒の多くは薄い空気の中、息を切らせながら、足もとを見つめて歩いていました。
中一の学年旅行は入学直後に行われるため、行き先も決まっており、プログラムの内容も学年の教員が決めています。この旅行の体験を基に、来年以降の旅行に向けて、旅行委員を中心として自分たちで旅行を企画・運営していく力が育っていくのを楽しみにしています。
2017年度の例
中一学年は例年通り、富士山方面に2泊3日の学年旅行を実施しました。梅雨の雨が直撃するという直前の予報でしたが、結果として概ね天候に恵まれました。
初日は飯盒炊爨。今回は教員も、生徒達と同様にカレー作りに勤しむことに。我々の班はなかなか火がつかず、生徒たちの班から火を分けてもらう、といったこともありましたが、何とかカレーが完成。美味しく味わいました。生徒の方はというと、我々のカレーを超える味のものから、「スープカレーだ!」「ご飯だけはおいしい」「リンゴは美味しい」という声があがるものまで(味はお察しください)、さまざまでした。
二日目は、午前中は富士山五合目のお中道をハイキング。雨風が吹くなか行ったたので、レインコート等を持参していない生徒は、バスの中に待機してもらいました。参加した生徒たちにとっても、自然の厳しい一面を体感し、印象深い体験になったようです。
午後は樹海散策(2コースに分かれる)、ぷちアドベンチャー、カナディアンカヌー、カーリングの5つに分かれ、コース別の体験学習を行いました。午前中の雨とはうって変わっての好天に恵まれ、生
徒達はそれぞれのコースを満喫していたようです。宿に帰ってきた彼らの笑顔が、何よりも雄弁に物語っていました。
三日目は農業体験&さくらんぼ食べ放題のコースと、金山博物館での見学&ほうとう作りのコースに分かれ、体験学習を行いました。農業体験は、これから成長していくぶどうの房に、かさをかけていくというもの。単純な作業ではありますが、生徒達は生き生きと目を輝かせて、作業に励んでいました。なかには積極的に、つるを切る作業をする生徒までいたほどでした。この動きの良さが、普段の生活でも出てくれれば。。。いえいえ、普段とは異なる環境だからこそ、なのでしょう。
中一旅行で大変なのは、準備期間が短いこと。入学してから旅行本番まで、たった2ヶ月しか準備期間がありません。その間、ボートレース、運動会、中間テストが控えていますので、さらに時間は制限されます。そんななかでしたが、旅行委員会に選出されてきた生徒たちは、はじめは戸惑いつつも、徐々に積極性をもって委員会活動に取り組んでくれました。
一方で課題も多く見えてきたことも事実です。それらは生徒たちの成長ののびしろと捉えて、これからの生徒指導や来年以降の学年旅行に活かしていきたいと考えています。
2016年度の例
平成28年6月1日(水)~6月3日(金)に、中1学年生徒は、例年通り富士・河口湖方面に行ってきた。宿泊ホテルも例年通り湖畔の美富士園の連泊である。しかし本年は準備段階で例年と違う状況が生まれてきたように思う。それは、富士山が世界遺産に登録されて以来、その人気が急激に高まり、下見の時も外国人観光客の多さには驚嘆した次第だが、これに連動して国内の教育旅行でも富士山人気が高まり、ホールアースなど人気の教育プログラムは既に予約満ぱいとなっていたことである。中1学年発足以降に具体的準備に取りかかった我々は、はっきり言って〝出遅れ〟状態だった。初日飯盒炊爨と三日目の御中道トレッキングは例年とほぼ変わらない内容だが、丸一日を使うコース別体験学習には、〝出遅れ〟が響いて工夫が必要だった。それは〝ガチ〟である。富士山とその周辺の自然とガチで取り組んでもらい、ヘトヘトになってもらう。例えば、当初業者側が提示してきた河口湖周辺を歩く半日の〝プチアドベンチャー〟に対して、学年側は登山も含めた一日がかりの〝ガチアドベンチャー〟を要求して、これに半数近くの生徒が参加して結構盛り上がったのである。また本格的富士登山のコースも入れたいという希望に対して、三日目のトレッキングでお世話になっている「ごうりき」さんがやはり予約満ぱいでアキがなく、今回東京の木風舎さんにお願いして、精進口から奥庭までのガチ登山が可能になった。旅行後とったアンケート結果であるが、①楽しくなかった、②まあまあ楽しかった(有意義だった)、③とても楽しかった(大変有意義だった)の三択で、二日目コースごとの満足度を調べたら、A「ガチ・カチ山」アドベンチャーゲーム=①六%②二七%③六七%、Bガチ富士登山=①○%②七%③九三%、C〈午前〉樹海散策=①一四%②五○%③三六%、C〈午後〉フォレストアドベンチャー=①四%②一一%③八五%、D〈午前〉カーリング=①八%②三四%③五八%、D〈午後〉カヌー体験=①三%②八%③八九%という結果になった。ちなみに参加者人数はA一四七人、B三四人、C八二人、D四○人である。総じて満足度は高かったと思うが、さらに細かくみると、ガチに自然とふれ合う、アドベンチャーゲームや登山、フォレストアドベンチャー、カヌー体験の満足度が非常に高かったと思う。前述のように富士山人気の上昇は、これまで続けてきた中1富士山旅行の実施に対する自由度が制約されてきたことを意味し、このまま富士山旅行を継続するのか、他の場所を模索するべきなのかの確認をする時期にきているといえる。今回特別に柳澤校長が本旅行に一泊随行されたのも、今後の中1旅行のあり方を判断するための視察としての意味があったのであろう。皆様の御協力と天候に恵まれたことで、結果的に本旅行は大変うまくいったと思うが、同時に富士旅行の意義深さを実感した次第である。生徒に「今後の中1旅行は富士で良いか?」との設問を投げかけたところ、九割以上が「富士で良い」と回答してきたことも考慮すれば、当面中1旅行を富士以外に切り替えるのは考えられそうもないし、それだけの魅力を備えた場所なのだと感じている。しかし、雨天のコースをどうするか、美術館見学なども取り入れるべきではないか、三日目トレッキングは中途半端ではないか、もっとキャンプの要素を取り入れるべきではないか、など課題は多く、今後の準備段階で様々な工夫と選択肢の拡大を図っていく必要があろう。少なくとも富士山が奈良・京都なみの2年前からの準備期間が必要になりつつあるのは事実で、旅行業者選定手順の見直しなどが必要となってきたことは確かであろう。
2015年度の例
6月3日―5日(2泊3日) 富士山方面
6月3日(水)学校~相模湖プレジャーフォレスト(飯盒炊爨)~ホテル
6月4日(木)ホテル~5合目ハイキング~コース別アクティビティ~ホテル
6月5日(金)ホテル~山梨県立美術館・文学館~御坂農園(昼食)~学校
「富士には月見草がよく似合ふ」
旅行3日目、御坂峠を抜けるバスのなかでY君が呟いた。なんとも綺麗な言葉だ。聞くと旅行前の国語の授業で、太宰治『富嶽百景』を学習したという。嗚呼、私も中学一年生の頃にこんな授業を受けて、富士の地を踏む経験をしていれば、もっと情緒豊かな人間性を獲得することが出来たのではないか。と、嘆いても仕方はないが、つくづく開成生が羨ましく感じる。
学校や塾の授業、教科書や参考書から幅広い知識を身に付けている開成生だが、まだまだ中学1年生、ホンモノの経験は少ない様子である。それが如実に現れたのは初日の飯盒炊爨、カレー作りであった。森楽塾さんの指導の下、美味い・早い・エコなカレー作りを競い合う。日頃の行いの賜物か、大雨降りしきるなか、カレーあるいはカレー風味スープの調理に取り掛かった。
第一関門は火起こし。薪を使って火を起こすのは大人でも至難の業。ましてや、火遊びなんてしたことがないであろう生徒たちの多くは、マッチを擦るのも初めてである。全てのかまどに火が灯ったのは、スタートから1時間半近く経った頃で、手早く調理を済ませた班からは、すでに「いただきます」の合唱が聞こえていた。
第二関門は野菜の皮むき。「皮むきなんてピーラーがあれば簡単なのに」という声が聞こえる気もするが、侮るなかれ開成生。ある生徒は、じゃがいもの全ての芽を取り除くまで、神経質にピーラーを動かし続け、完了した暁にはじゃがいもの体積は3分の1までに減少。別の生徒は、たまねぎの皮むきに立ち向かう際の装備もピーラー。絶句した。
そして最後にして最大の関門は実食。量を多めに作ると食べ残しが出てしまい、生ごみの多さは減点対象となる。競争意識を掻き立てられた開成生はとにかく完食を目指すのだが、料理に不慣れな男子たちには、準備した食材から完成後の量をイメージするなど、微分積分より難しいのである。味など神のみぞ知るといったところか。
「食べる前はあんなにお腹が減っていたのになぁ。やっぱりマズいものってお腹いっぱいになりますね。」「自分で作ったものは何でも美味いっていうのは嘘ですね。」
試食して回った私たちは、多くのいくつかの班でおいしいカレーが完成していたことも知っている。しかし、失敗こそ成功の種。上手くいかなった生徒たちこそ、いつも美味しい料理を作ってくれる親の有難さをしみじみと感じていたようだ。
旅行2日目の朝。前日の雨で大気の塵が洗い流され、息をのむほど美しい空・湖・富士の姿が目に飛び込んできた。ホテルの方やガイドさんが、口を揃えて「絶好のハイキング日和ですね」と仰る。嗚呼、開成生の日頃の行いの賜物だ、と感謝する。
5合目ハイキングは、大人気・予約困難・行列のできる富士山ガイドで知られる「ごうりき」さんに案内いただく。「ごうりき」代表の近藤さんには、旅行直前にも開成中学校小講堂にて、事前学習の講演をいただいた。その様子は、「開成の教育」(2015/5/30中1学年旅行前の事前学習が行われました)にて紹介している。
5合目に近い御庭~奥庭コースを散策する。ここは森林限界も近く、すこし上を見上げれば、カラマツ林と赤茶けた岩肌の境界がよく分かる。歩けば足元の石が擦れ合い、カラカラと高い音を響かせるのは、溶岩が冷え固まりガラス質を含む石が多いからだとか。リアルな体験を通して聞くガイドさんの話に引き込まれる。日常、黒板を背に、教科書片手に行う授業を生業とする身としては、嫉妬や悔しさも感じるほどに面白い。
「ところでハイキングとトレッキングって、何が違うんですか。」男性ガイドさんへの、ある生徒の素朴な疑問。ガイドさんは即答する。「トレッキングとハイキングに大きな違いは無い。でもピクニックとは明確に違いがある。どこかへ行き、食事を摂ることが主目的であれば、それはピクニックだ。」成る程。エベレスト山頂でお弁当を食することが目的ならば、それは文字通り世界最高のピクニックであるということか。もう悔しさも感じないほどに、実に面白い。
7台のバスが西日暮里に到着する頃、再び雨が降り出した。間違いなく、日頃の行いの賜物である。生徒たちは笑顔を残し、足早に帰路につく。私たちは心地良い疲労感以上の疲労感を全身に感じながら、取り敢えず帰校できた喜びを噛みしめた。
さて、これからが学年旅行の真のスタートである。お膳立てされた中1旅行とは違い、来年以降の学年旅行では、生徒自身が計画を立て、準備を進めないといけない。どうなることやらと不安を抱きつつも、生徒たちの成長と、来年の旅行での好天を楽しみにしている。
2014年度の例
6月4日―6日(2泊3日) 富士山方面
- 第1日 学校(集合)―神奈川県相模湖プレジャーフォレストにて飯ごう炊さん ―山梨県河口湖ホテル美富士園(宿泊)
- 第2日 ホテル―富士山・河口湖周辺にてコース別体験(午前・午後)―ホテル
- 第3日 ホテル―道の駅富士吉田にて富士山レーダードーム見学―山梨県立美 術館・文学館見学―学校(解散)
初めての運動会・中間考査を終えた1年生は、2か月という短い期間で、入学式の不安そうな顔からは想像も出来ないほど、逞しく成長したように思います。ボートレース応援や運動会練習で先輩の厳しい指導を受け、中間考査では手荒い洗礼を受け、未知なるクラブへの入部を経験し、それらと同時並行で早速の学年旅行の準備を進めてきました。 各クラス内で選ばれた旅行委員(=彼らは「旅委」と呼びます)は、実質1か月程度の短期間ながらも、1日目のグループ別飯ごう炊さん、2日目のコース別体験の準備などを取り仕切ってくれました。また中間考査を挟みつつ、タイトなスケジュールで「学年旅行のしおり」作りにも取り組み、(完成はギリギリでしたが)無事に完成させ、前日の旅行説明会を迎えることが出来ました。 少し実際の行程をご紹介したいと思います。 1日目、学校を出発するやクラスごとに分乗したバス車内では、日ごろ授業中では見られないような熱気!盛り上がり!元気すぎる・・・(ため息)。「先が思いやられる」と不安になりました。引率者の不安も露知らず、開放感に溢れた生徒と、生徒たちを護送するバスは、相模湖プレジャーフォレストに到着しました。 1日目のメインイベント、飯ごう炊さんです。1組~7組の同じ出席番号の生徒たちを基本にして、事前に班分けされたメンバーは『虎の巻』と称する飯ごう炊さん手引書を読み、役割分担を行っています。この飯ごう炊さん、ただご飯とカレーを作るだけではありません。競争方式になっています。料理の鉄人よろしく審査員が登場してその妙味を批評する、に留まりません。ポイントは①米の炊き具合②カレーの出来③盛り付け④作業場所の美しさ⑤食器洗い・片づけの徹底⑥素早い作業⑦班員との協力・・・など様々な観点で競い合いました。面白いもので、同じ『虎の巻』をもとに作業を進めているハズなのに、班によって斯くも見事に個性が表れるのか!と色んな意味で感心しました。味の観点だけでも、大半の班が「世に認められる」カレーを食することが出来ましたが、一部に班は「流行の先端を取り入れた」スープカレーや、動物としての原点に立ち返った野性的なカレー(平たく言えば、野菜が生で固かった)を食していました。何にせよ、協力して楽しく作った料理はおいしい!と話題を収束させたいところですが、今回の飯ごう炊さんを指導頂いた「森楽塾(しんがくじゅく)」のインストラクターさんからは、次にように講評を頂きました。「アウトドアで作った料理は何でも美味しい。これは当たり前で、さらに一歩先へ進んでみよう。自然を汚さず、ゴミを極力減らし、キレイに後片付けをしてこそ、本当に楽しいアウトドアである。今年の開成中学1年生が出したゴミの量(調理によって出たゴミ)は、大変少ない!素晴らしい。」班や学年としての協力、周囲への思いやりなどの細かい点では至らない点も多く、注意を頂いたこともありましたが、それは今後への課題として、何にせよ充実した1日目の体験になったことと思います。 再び行程を進めます。あいにくの曇り空のもと、うっすらと見える富士山を横目に進み、山梨県河口湖畔のホテル美富士園へ到着しました。ここでは2泊、お世話になります。入浴や食事、部屋での友人との楽しいひと時を過ごしながらも、共同生活のなかで友人の異なる側面に気づき、学校内で接する以上に濃密な関係を築いたことと思います。 2日目は、7つのグループに分かれて、富士山・河口湖周辺にて午前・午後とも各種アクティビティ体験を行いました。そのうち筆者の同行したグループについて紹介いたします。 第3グループは、午前-河口湖カヌー、午後-富士樹海トレッキングを行いました。カヌーの種類はカナディアンカヌー、一部の生徒はカヌー経験があるようですが、多くは初心者、陸の上でのレクチャーを受けたのちの出航です。3人乗りカヌーには、それぞれに役割分担があり、「前はエンジン、後ろは舵取り、真ん中は応援」を担います。それぞれの役割と操作手順を30分ほど教わったばかりなのに、さすが飲み込みの早い中学生、インストラクターさんに続いて颯爽と河口湖へと飛び出していきます。サブマリンと勘違いしたのか水中へ潜航し、救助された2艇を除き、心配されたほどの雨にも打たれず、全員が楽しく約2時間半のカヌー体験を終えることが出来ました。 しかし一転、午後の富士樹海トレッキングを行う頃には強い雨が降り始めました。結果的には、雨ならではの貴重な樹海体験が出来ることになるのですが、強くなる雨に対する不安と不満を胸にトレッキングをスタートしました。青木が原、原始林、自殺の名所・・・メディアで知ることの出来る表層の知識は、樹海を歩いているうちに剥がれ落ち、「ナマの体験」「ホンモノの経験」が覆ってくれました。森林と樹海の明確な境界線を知り、浅い土壌に根を張った森林の生命力を感じ、鬱蒼と茂る森林が直接の雨から守ってくれる安心感に気付いたのです。また、きつい雨でも水たまりの出来ない地面、スポンジの如く水を吸い込んだ木の破片を見ることができ、雨天ならではの経験を得ました。「森は自然のダム」という言葉を、身をもって知ることができたように思います。一方で、生命を育む森林も、人間が活動する領域に近づくと「ゴミが増える」ことも分かりました。インストラクターさんの発した「自然に分解できないゴミを出すのは人間だけ」という言葉が胸に残っています。往復コースを歩くトレッキングでしたが、行きには「見えなかった」が、帰りには「見えるようなった」ゴミを拾い集めながら帰り、参加した生徒たちにはそれぞれに、自然と人間活動のあり方について思いを持ったと思われます。 最終日、3日目は全員で富士山5合目のトレッキングを行う予定でした。しかし、残念ながら旅行中に梅雨入りを果たした模様。降り止まない雨で行程の変更を余儀なくされ、富士山レーダードームと、山梨県立美術館・文学館の見学を行いました。生徒たちは、理科の授業の一環で、NHKの番組「プロジェクトX」DVDを見て、富士山レーダードームの歴史を事前学習していました。現在はそのレーダードームが役目を終え、富士山ろくの道の駅に展示されています。また山梨県立美術館は、常設展でミレーの作品を中心にヨーロッパや日本の風景画などを数多く展示し、また特別展でもキネティックアート展が開催されていました。「1時間では物足りない」との生徒からの声もたくさん上がるほど、急な予定変更の割に内容の濃い雨コースとなりました。 2泊3日の学年旅行を通じ、月並みではありますが「生徒たちの親交を深める」ことは十分にできたと感じています。しかし開成の中学生は、ここからがスタートなのです。旅行中にも全体への伝達事項は旅委が行い、ホテルでの旅委ミーティングや室長ミーティングも自分たちで取り仕切る。学年旅行を終えるとすぐに、中学2年の学年旅行へ向けての反省会を行う。運動会、学園祭、クラブ活動、学年旅行などすべてを自分たちの手で運営する開成ならでは光景でしょう。すべての経験が次の実践へつながるのです。同じ意味で、富士山周辺で数多くの「ホンモノの経験」が出来たことは、中学1年生の「未来につながる礎」になることと信じています。今から来年の学年旅行を楽しみにしています。
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